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エンジニアじゃなくなっちゃった人が何かを書くブログ

2019年に読んだ面白かった本まとめ

小説

1位「アンドロイドは電気羊の夢を見るか? - フィリップ・K・ディック

長く続いた戦争のため、放射能灰に汚染され廃墟と化した地球。生き残ったものの中には異星に安住の地を求めるものも多い。そのため異星での植民計画が重要視されるが、過酷で危険を伴う労働は、もっぱらアンドロイドを用いて行われている。また、多くの生物が絶滅し稀少なため、生物を所有することが一種のステータスとなっている。そんななか、火星で植民奴隷として使われていた8人のアンドロイドが逃亡し、地球に逃げ込むという事件が発生。人工の電気羊しか飼えず、本物の動物を手に入れたいと願っているリックは、多額の懸賞金のため「アンドロイド狩り」の仕事を引き受けるのだが…。

2019年に読んだ小説の中で最高に面白かったのは、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」でした。人間そっくりのアンドロイドが存在する近未来SFで、人間とアンドロイドの違いは何なのか、何が人間を人間たらしめるのかを描いた作品です。作中において主人公はアンドロイド狩りの仕事をしており、当然アンドロイドと人間を見分けることが必要になるのですが、その際に用いるテストは「感情移入度の測定」となっている。つまり、表面的には同じように振る舞っても、内面で感情移入できているのかどうかが人間とアンドロイドの差なのだと表現されているのが非常に興味深かったです。代謝機能の有無という生物学的に明確な差異も作中には出てくるのですが、それよりも感情移入できるかどうか、他者に共感できるかどうかが人間を人間たらしめる要素なのだと。そういう意味で、他者に共感できない、自分のことしか考えられない人間は、果たして人間たり得るのか。そういったことを考えさせてくれる作品でした。

2位「禅とオートバイ修理技術 - ロバート・M. パーシグ」

かつて大学講師であった著者は失われた記憶を求め、心を閉ざす息子とともに大陸横断の旅へと繰り出す。道中自らのために行なう思考の「講義」もまた、バイクの修理に端を発して、禅の教えからギリシャ哲学まであらゆる思想体系に挑みつつ、以前彼が探求していた“クオリティ”の核心へと近づいていく。だが辿り着いた記憶の深淵で彼を待っていたのはあまりにも残酷な真実だった…。知性の鋭さゆえに胸をえぐられる魂の物語。

オートバイで旅をしながら、現代のテクノロジーや西洋思想に潜む「合理性そのもの」という幽霊と対峙する話。上下巻に分かれていて、難解なため1回では理解するのは難しかったですが、何となく著者の言わんとしていることは伝わってきたかなと思います。西洋思想や近代以降のテクノロジーというのは基本的に合理性を是としていますが、テクノロジーの発展によって人々が必ずしも幸せになっているとは言い切れず、上巻では「果たして合理性は本当に是なのか」と問いかけている。そして、本当に必要なのは合理性ではなく「クオリティ」であり、下巻ではその「クオリティ」の正体を追い求める話がメインで展開されます。クオリティの正体は最後になってもスッキリとは定義されませんが、「アレテー(単にすぐれていること)」こそがクオリティなのではないかと、今のところは思っています。

3位「大日本サムライガール - 至道 流星」

「真正なる右翼は、日本に私ただ一人である!」。拡声器を片手に街頭で叫ぶ謎の演説美少女・神楽日毬。彼女の最終目的は日本政治の頂点に独裁者として君臨し、この国を根底から変えること―!しかしどれだけ努力しても活動の成果がさっぱり挙がらぬ日毬に、日本最大の広告代理店・蒼通の若手社員、織葉颯斗は現実を突きつける。「メディアに露出していない政治家なんて、存在していないのと同じこと―」。熟考の果て、日毬は颯斗とタッグを組み、独裁者への道を最短コースで実現するためあらゆるメディアを席巻するアイドルスターになることを決意する。目的は政治の頂点、手段はアイドル―。至道流星の本気が迸る、“政治・経済・芸能”エンタテインメント、ここに開幕。

「右翼の女子高生と元電通(作中では蒼通という名前)社員がタッグを組んで芸能界を駆け上る話」という、個人的に非常にささったコンセプトの作品。全9巻で完結しています。ただ、最高に面白かったのは正直言うと1巻だけで、2巻以降はちょっと物足りなかったなと感じています。というのも、1巻を読んで期待したのは、「理想を追い求める純粋まっすぐな女子高生と、参謀としての電通マンのタッグ」だったのですが、2巻以降で女子高生がだんだん純粋まっすぐではなくなってきて、それは作中では「良い意味での柔軟性」と語られていますが、そんな柔軟性なんか身に着けず、ひたすらまっすぐの方がキャラクターとして魅力的だったように思います。妥協の産物である政治の世界で、染まることなく理想を追求し続ける女子高生アイドルを最後まで描いてくれればよかったなと。

小説以外

1位「好きなようにしてください - 楠木 建」

人生はトレード・オフ。その本質は「何をやらないか」を決めること。環境の選択は無意味。「最適な環境」は存在しない。趣味と仕事は違う。自分以外の誰かのためにやるのが仕事。仕事にどのように向き合うか。仕事の迷いに『ストーリーとしての競争戦略』の著者が答えを示す!

一橋大学の楠木教授による、学生や若手社員からの「お悩み相談」に対する回答をまとめた本。軽妙な文体で、基本的に全ての相談に「好きなようにしてください」と回答した上でご自身のキャリア観を語っているので、相談者にとって問題解決になっているかどうかは微妙だけれど、読み物としてはとても面白い。自分のキャリアを考える時だけでなく、他人のキャリア相談にのる時にも役に立つ、ヒントになるような考え方が結構詰まっていると思う。個人的には、「人のためになることが仕事で、それ以外は趣味」、「本人が努力していると感じるようではダメ。質・量ともに他者を圧倒できるくらいの努力をするためには、本人がそれを努力と思っていないことが必要」というような言葉が好きです。

2位「生き物の死にざま - 稲垣 栄洋」

すべては「命のバトン」をつなぐために―ゾウ、サケ、セミ、ミツバチ…生命の“最後の輝き”を描く哀切と感動の物語。

29種類の生き物の死にざま(いかに命のバトンを繋いでいくのか)が書かれた本。種の保存のために生物が編み出した色々なメカニズムを読むと、生命というのは不思議だなとしみじみ思います。そもそも生きることに目的はあるのか。種の保存が目的だとしたら、なんのために遺伝子を後世に繋ぐのか。そもそも生命に目的があるという考え自体が、実は勘違いなのではないか。例えばベストセラーにもなった「サピエンス全史」の中では、生命の誕生は地球の歴史の中でも特に大きなインパクトのあったイベントだと語られますが、そこでは「生命はまるで目的を持っているかのように見える」と表現されています。風が吹くことや火が燃えることに目的が無いように、生命も一つの自然現象に過ぎず、実はそこに目的を見出す必要などないのではないか。そんなことを考える1冊でした。

3位「アニメプロデューサーになろう! - 福原 慶匡」

アニメのプロデューサーには「製作」と「制作」、2つの役割があります。「製作」はアニメを「商品」として見る立場、「制作」はアニメを「作品」として見る立場です。日本のアニメはクリエイティブのレベルが高く、世界中でニーズがあります。でも、ビジネス面では発展途上です。この構造を変えられるのは、「製作」と「制作」両方のスキルと変革の意志を持った、新時代のアニメーションプロデューサーだけです。本書は「この先」を作るために、アニメーションプロデューサーに必要な「今現在の常識」を一気に学べる本をめざしました。アニメビジネスの未来のために、この本をぜひ使ってください。

アニメ業界のビジネスモデルが分かりやすくまとめられた1冊。昔の広告収入モデルから、今の主流である製作委員会モデルへと変遷していった経緯や、それぞれのモデルの問題点が分かりやすく説明されています。もともとは個人的にアニメーターの待遇問題に興味があって読んでみた本でしたが、製作委員会という現行のビジネスモデルを変革し、お金を稼げるビジネスモデルを構築することが、結局は現場のスタッフの待遇を改善するための最良の一手のような気がしました。最近はNETFLIX等のおかげで世界にも打って出やすくなっており、製作委員会モデルに代わる新しいビジネスモデルが徐々に見え始めています。ただ、そんな中で危惧するのは、次のビジネスモデルも結局プロデューサーや配信元が儲かるだけで、現場のアニメーターに還元されないようなものでは意味が無いということ。アニメーターを食い潰すのではなく、流行りの言葉で言えばサスティナブルなビジネスモデルを作り上げる必要があると思います。それにしても、アニメだけに限らずですが、コンテンツを直接作っているのはアニメーターなのに、それを配信したりする側が上位層みたいになっているのは不思議だなと個人的には思います。むしろ作れる方が上位層で、配信する側は「配信させていただいている」みたいな感じの方が、構造として正しいんじゃないかなと。


以上。