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【雑記】【ネタバレ】心が叫びたがってるんだ。

心が叫びたがってるんだ。』を観てきたんですが、非常に良くて最高でただいま心が叫びたがってるので、感想を書きます。
勢いで書いているので全然まとまってませんが、参考程度に見ていただければ。
多少ネタバレもあります。

アニメ映画『心が叫びたがってるんだ。』

「言葉」の重さを伝える話

全体としてのテーマは「言葉」。

劇中のセリフにも直球で出てきますが、「言葉は人を傷つける(順)」けど、言葉で人は救われもする。
主人公の順は幼少期のトラウマで喋ることができないけど、別に順だけじゃなくて、誰だって言葉で人を傷つけるし、言葉で救われます。
ただ同時に「言わなきゃわかんないよな(拓実)」というセリフにもあるように、それでも言葉にしなきゃダメなんですよね。

ちなみに書いてて思ったんですが、順のトラウマが素直に喋りすぎたことに起因しているのに対して、拓実と菜月のすれ違いは素直に話せなかったことに起因しているという対比があって面白いです。
素直な言葉もそうじゃない言葉も、どちらも人を傷つけるということ。

そしてこの「素直」っていうのも結構大事な要素で、順も拓実も菜月も大樹も、みんなそれぞれ素直じゃありません。
というか、順以外の3人は喋ってはいるけど、心では喋っていない、口で喋っているだけです。
心が叫びたがっているのは、みんな同じ。
順はただそれがちょっと他の人よりわかりやすく表面に表れているだけなんですよね。

いずれにせよ、全体としてのメッセージがすごくシンプルで、言われてみれば当然のことなんですが、物語の途中まではずっと伏線や暗喩に留めておいて、最後にセリフとして表現させるっていうやり方は個人的に結構好きです。
シンプルなメッセージが、重みをもって伝わるので。

ハッピーエンドじゃないよ

物語は、地域ふれあい交流会で行うクラス劇の制作と本番を軸に進むのですが、
この劇中劇は、順自身の物語をモデルに順自身が脚本を書いているため、映画のストーリーの暗喩としてすごく機能しています。

当初、順は物語をサッドエンドにする予定でした。
ヒロインは死んでしまい、死んでしまった後になって心の叫び声が溢れてくる。
王子に「愛してる」と伝える頃にはもう遅い。
ですが途中で、順は結末をハッピーエンドに変えようとします。
ヒロインは順で、王子は拓実で、結末はハッピーエンド。
ここに順の意思のようなものも感じますが、ともあれ拓実はサッドエンドもハッピーエンドも、どちらも順の伝えたいこととして、両方とも取り入れたようなラストにします。

映画自体は、順は声を取り戻すし、母親との確執もなくなるし、拓実と菜月はよりを戻すし、順と大樹はくっつきそうだしで、なんとなくハッピーエンド感がありますが、個人的にはハッピーエンドではないよなと思います。
順は精神的にものすごく子どもだし、声を取り戻したところで、幼少期にトラウマが発生した頃と何が違うのか、声を取り戻せばハッピーエンドなのかというと、そうではないはずです。
劇中劇のラストで、取り戻した声で歌うのがハッピーエンド用の曲、心の声が歌うのがサッドエンド用の曲というのが、その辺を表しているのかなぁと。
ただ、「自分のおしゃべりのせいにしないとどうしていいのかわからない」と言っていた順が現実と向き合ったことで、ようやく前に進めるというのはあると思いますが。

割とリアル

映画の冒頭はラブホのシーンです。
幼少期の順が「お城」として憧れていた世界ですが、このラブホが映画全体を通してちょいちょいメタファーとして出てきて、しかも割とリアルです。
例えば劇中劇の、「そのお城が罪を犯した人を踊らせ続けている場所だと知ってもなお、少女はお城に行きたいという思いを止められない」という脚本なんかは、お城がラブホから来ていることを考えるとものすごく生々しい話だなぁとも思いますし、劇の当日に順が逃げ込んで、追いかけてきた拓実とぶつかり合うシーンでは、背景にガラス張りのシャワールームがわざわざ描かれていたりして、そこがラブホであることを強調してきます。
それ以外にも、チア部の誰かと野球部の誰かが校内の物陰でキスしているシーンがあるんですが、セリフも音も描写もプリヤ並にリアルだったり、野球部の先輩後輩の確執や順の母親が保険の営業で苦労しているあたりなんかも、サブストーリーでありながらやけにリアリティのある表現だなぁと。

テーマ自体が普遍的なものなので、作品全体にリアリティを出すための表現は結構多かったと思います。

『あの花』ではないよ

ここまでの文章でわかると思いますが、本作はテーマもストーリーも世界観も、「あの花」とは全く異なります
リアルだし、魔法の玉子なんて無いし、メッセージも現実的だし。

感想の速報に「true tearsに似ている」という意見があったのですが、話自体は確かにそうかもしれません。
順は声が出せなくて、乃絵は涙を流せない。
菜月も比呂美も優等生で、主人公に好意を寄せているけど、それを表現しない。
テーマは違いますが、3人の関係のドロドロ感とか、話の雰囲気は似ていると思います。
アニメばりばりではなくて、普通の青春恋愛映画をアニメで表現している感じですかね。
「あの花」ファンがアニメと同じ雰囲気を期待して観ると、確実に肩透かしを喰らうと思います。

音楽

最後に音楽について。

劇中劇はミュージカルなので、作中にも歌がちょくちょく挟まります。
一番の見所はやっぱり劇のラストで、ベートーベンの「悲愴」とオズの魔法使いの「Over the Rainbow」にそれぞれ歌詞を付けてマッシュアップみたいにして歌うシーンがあるのですが、それがもう最高でした。
この曲のためだけにサントラが欲しいレベル。

なお、エンドロールがなぜか乃木坂なんですが、これは本当になんでなんだろう?
電通の仕業としか言いようがないのか。
悲愴とOver the Rainbowでいいやん。

まとめ

やっぱり長井龍雪と岡田マリーはすごいなぁと思います。
まぁ脚本は今回王道と言えば王道なんですけど。

声優さんも、メイン4人は割とバッチリでした。
雨宮さんは順役のオーディションも受けたとかいう話でしたが、まぁ菜月だよなぁと思います。

あと思ったのは、1クールとかでアニメをやった後に作られた劇場版と、最初から2時間の映画として作られたものとはやっぱり全然違うなと。
この作品を1クールとかのアニメにしちゃうと、キャラを立てるのが大事になって一番重要なメッセージがぼやけてしまうと思うので、せっかく普遍的でアニメファン以外にも響くテーマなんだから、映画という形で、しかもバリバリのアニメ作品としてではなく、一般にも受け入れられるような作品として作ったのはすごく良いと思います。
できれば普段アニメ映画を観ないという人や、ジブリ細田守くらいしか観ないという方にも観てほしいなと思いました。


おわり。